2021年版 オフショア開発の最新動向 (コロナ禍での活用)

日本では2020年4月に緊急事態宣言が発出されてから1年以上経過しました。この間、身の回りの生活様式が激変しました。テレワークの拡大、これに伴う巣ごもり需要などです。このため、従来にも増して業務のデジタル化が進みました。また、デジタル技術を活用した新業態もたくさん出現しています。
デジタル技術の活用拡大の一方で、デジタル化を支えるITエンジニアの不足はますます深刻になっています。この様な社会情勢の大きな変化の中で、ITエンジニア不足の解決策として期待されるオフショア開発の動向について、考察していきます。

目次

1. コロナ禍の経済情勢

1-1. 企業業績は二極化

先ごろ日本政府から発表された2021年1月から3月期の日本の国内総生産(GDP)は、前期比年率換算で▲5.1%でした。落ち込み幅は、2008年度のリーマン・ショックを超えています。ところが、世界に目を転じると、同じ時期の経済成長率は、米国は前期比年率換算+6.4%、中国は+2.4%、EUは▲2.5%となりました。地域によるこの差は、各国のコロナ対策が大きく影響しているものとみえます。
日本国内に注目しますと、GDPの大半を占めている個人消費が前期比で▲1.4%と大きく減少しました。緊急事態宣言の影響で、外出自粛、飲食店の時短営業などが続き、外食、衣料品などの個人消費が大幅に減少しました。その結果がGDPの落ち込みに大きく影響しています。
日本企業の業績は、大半の企業が悪化を予想しています。一方で、いわゆる巣ごもり需要などの影響で、業績が拡大している企業もあります。ゲーム関係、家電関係、宅配・物流関係、通信関係なども業績を拡大しています。巣ごもり、テレワーク、5Gなどが好況のキーワードとなっているようです

1-2. 新しいビジネススタイル

このような環境下で、新しい取り組みを打ち出す企業がいくつも目につきます。
化粧品大手の資生堂は、コンサルタント大手のアクセンチュアとデジタルマーケッティング業務とデジタル・IT関連業務を提供する合弁会社を設立し、デジタルを中心とした事業モデル改革、グローバル標準のITインフラとオペレーションの構築、さらに、デジタル・IT領域での人材強化に取り組むと発表しました。
ANAホールディングスは、新しい旅の体験価値の創造に向けてバーチャルトラベルプラットフォームを開発すると発表しました。コロナ禍でデジタル化を加速させ、新常態での消費者の価値観の変化に対応するために、バーチャル空間における旅行やショッピングなどの体験を通じてリアルを超える体験消費に応えるとしています
ビックデータを活用した独自の発注システムを活用して高利益率を出している100円ショップもあります。ECサイトの構築、デリバリーサイトの構築など、身近なところでも数多くのデジタル化が新たなビジネス形態を生み出しています
いずれも、経験に裏打ちされたITシステムを構築・活用して、大きく変化した価値観、あるいは常に変化する価値観へ対応しようとしています。

2. ITエンジニア不足

このように、デジタル化で新たなビジネスを展開しようとしていますが、さらなる拡大には、ITエンジニアの不足が一つの足かせとなっているのではないでしょうか。
実は、ITエンジニアの不足は世界的な傾向です。ある推計によりますと、通信業界などでのITエンジニアは、2020年には全世界で100万人不足、それが、2030年になると400万人以上不足すると言われています。このように、世界的にITエンジニアが不足する背景には、AI技術の活用、モノがネットにつながるIoT技術の普及と活用など、ITエンジニアがあらゆる産業から引く手あまたになっているためです。
日本でのITエンジニアの不足はとても深刻です。経済産業省の調査では、2030年には45万人ほどのITエンジニア不足が予測されています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行った日本のIT関連企業996社への調査結果でも下図の様におよそ93%の企業でIT人材が不足していると感じていることがわかります。

IT人材は十分に確保できているか

“IT人材は十分に確保できているか?(Copyright 2020 IPA)”

それでは、これらのIT企業は、どのようにしてIT人材を確保しているのでしょうか。この調査結果が、下図です。新卒採用、中途採用に次いで多いのが、協力会社・派遣会社等外部人材の活用です。
どのIT企業も新卒採用に力を入れています。しかし、即戦力という観点からは、中途採用、あるいは外部人材の活用が有効であることは、改めて申すまでもありません。

IT人材を獲得・確保するために行ったこと

“IT人材を獲得・確保するために行ったこと(Copyright 2020 IPA)”

こうしたなか、5月に開催された第26回国際交流会議「アジアの未来」でフィリピンのドゥテルテ大統領の「世界のデジタル経済の一員として活躍したい」、ベトナムのファム・ミン・チン首相の「国民のデジタル意識を改善させ人材育成に注力する」といった発言は注目されます。アジア諸国がデジタル市場に注目し、あるいはデジタル人材の育成に注力する考えが示されました。
日本のITエンジニア不足は、デジタル人材の豊富なアジア諸国と連携しながら補っていくのが大きな解決策になると考えます。従って、今後はますますオフショア開発の活用を深めていくことが重要であると考えます

3. オフショア開発をどう活用するか?

3-1. 委託開発

オフショア開発は、委託開発をすることが基本でした。今後も、この考え方は継続すると思います
システム別に、委託される内容を見ると、従来からもっとも多い開発は、Webシステム開発とスマホアプリ開発です。特に、コロナ禍での社会情勢の変化、リモートワークの増加、飲食店での営業制約などの影響で、ECサイトなどのアプリ開発とWebサービス開発が増加しています。オフショア開発会社には、これらの分野を得意とする会社が多く、これからもオフショア開発活用の主流であると考えます。
一方、昨年あたりから基幹系システムをオフショア開発で行いたいという案件が増加しています。一般に、基幹系システムは大規模であり、システムのカバーする領域も大きいため、多くの経験が必要です。従来は、日本国内での開発がほとんどでした。しかし、日本国内のITエンジニア不足の影響で、この分野もオフショア開発に委託するケースが増加してきています。オフショア開発会社も、近年は会社の規模が大きくなり、基幹システムの開発に対応できる力を持っている会社があります。インドをはじめ、ベトナムの会社も基幹システムに取り組み始めてきました。

3-2. これからの新しい活用術

オフショア会社の特長一つに、最新のソフトウエア技術を米国を中心として世界中から取り入れることがあります。良いものをいち早く取り入れるという考え方です。そのため、いろいろな分野での新しいビジネススタイルも見聞きして、取り込んでいきます。そういう観点からすると、技術面、ビジネスのプラットフォームの面で日本より進んでいる場合が多々あるようにみえます。これを活用すると、従来の様にオフショア開発会社に委託するばかりではなく、オフショア会社に相談して共同で開発していくというアプローチも重要になっていくと考えます。
さらに、AI開発、ブロックチェーン開発などの最新技術のシステムについては、むしろオフショア開発会社の方が得意分野かもしれません。特に、ベトナムでは多くのAIエンジニアが育成されており、いろいろなシステムでの活用が期待できます
最新技術、最新のビジネスプラットフォームをオフショア開発を通して取り込むことが、将来に向けた活用術と考えます。

4. 国別、オフショア開発先の特徴

アジア諸国と連携するために、それぞれの国でのオフショア開発について、その特徴を見ていきましょう。

4-1. 中国

改めていうまでもなく、オフショア開発の担い手として大きな役割を果たしてきました。以前はオフショア開発といえば中国でしたが、近年は人件費の高騰などの影響もあり、発注額の割合としては順位を下げています。
現在中国では、生活圏でのデジタル化がとても進んでいます。さらに、中国は高度・先進技術の開発では高い技術力を持っており、デジタル技術活用の実績も積んでいます。今後は、オフショア開発という観点より、むしろ技術パートナーとしての位置付けに代わると考えられます。

4-2. インド

インドは、主に欧米諸国のオフショア開発委託先の中心です。そのため、以前から大規模システムでは技術力とエンジニアの豊富さから優位でした。今後も、この様な大規模開発では力を発揮していくと考えられます。
しかし、人件費の面では大きなメリットが望めません。そのため、オフショア開発という観点よりリソース確保の目的で、共同での開発体制構築といった考え方に変化していくと考えられます。

4-3. ベトナム

ここ数年のオフショア開発委託先としてもっとも多いのはベトナムです。現在は、委託先の半数以上はベトナムに委託されています。今後も、この傾向は続くと思われます
ベトナムが、オフショア開発の委託先として最も多くなった理由はいくつか挙げられます。親日的であり、勤勉な国民性、地理的な近さ、加えて人件費が安いことなどです。ベトナムでは、前述の通り国を挙げてITエンジニアの教育・育成に力を入れています。そのため、今後も継続的に優秀なITエンジニア供給が期待できます。これに加えて、日本語教育も盛んです。第二外国語として日本語を採用している学校もあります。これらのことから、日本語を話す優秀なITエンジニアが豊富なことが大きな特長と言えます。
オフショア開発先を選ぶ時の重要なポイントに、コミュニケーションの容易さがあります。ベトナムは、日本語でのコミュニケーションが可能であることが、他のオフショア先と異なる大きな特長です。ほとんどのオフショア開発では、コミュニケーションの主体は英語です。しかし、オフショア先のエンジニアと日本語で直接コミュニケーションができることで、オフショア開発の一つの壁を取り払えます。

4-4. フィリピンとバングラディシュ

フィリピンとバングラディシュは、オフショア開発の発注先として近年伸びてきています。その原因は、一つには英語によるコミュニケーションであると思われます。日本企業でも、業務のグローバル化にともないHPなどのPR資料に英語を併用することが多くなっています。この場合にフィリピンやバングラディシュが大きなメリットとなっていると思われます。
特に、バングラディシュは人件費が安いという利点もあります。ITエンジニアの教育にも力を入れており、今後大きく伸びていく可能性があります。

4-5. 各国の比較

以上、国別の特徴を見てきました。最近は、ミャンマーもオフショア開発国の候補に挙げたいのですが、現在の情勢からしばらくは無理と判断してあえて記載しておりません。情勢が落ち着けば、また検討対象になると思います。
ここでは、最近のITエンジニアの月単価を比較しました。エンジニアの経験、スキル、また、プロジェクトマネージャークラス、ブリッジSEクラスなどにより単価も異なります。
ここでは、平均的なITエンジニアの月額単価を比較してみました。中国、インドは単価が高めですが、前述の通りオフショア開発の中でも特殊な位置づけが良いと思われます。ベトナムは少しづつですが単価が上昇気味です。しかし、AI関係、大規模システムなど幅広い分野での活用が可能です。フィリピン、バングラディシュの単価は、まだ低い水準にあると言えます。

 
ITエンジニアの月単価相場(万円)
中国
    35~40
インド
    30~40
ベトナム
    30~35
フィリピン
    25~30
バングラデシュ
    23~28

“(弊社の調査結果による)”

オフショア開発委託先の選定にあたっては、単価ばかりではなく、コミュニケーションの容易さ、開発システムの得意分野などを総合的に勘案して決めていくことがよいと考えます。

5. まとめ

コロナ禍の影響で、社会情勢が大きく変わりました。この様な状況下、これからはビジネスのデジタル化が、ますます進むと考えられます。デジタル化の成否がビジネスに関わると言っても決して過言ではないと思います。
一方で深刻なITエンジニア不足は、依然として続きます。ITエンジニア不足解消の即効薬の一つがオフショア開発です。特にアジア諸国は国を挙げてITエンジニアの育成をし、IT関連産業を伸ばそうと力を入れています。これらのアジア諸国のオフショア開発を活用することが、日本でのビジネス活性化、再生にとってますます重要になってくると考えます