近年、大規模言語モデル(LLM)の発展は目覚ましく、人工汎用知能(AGI)の実現が現実味を帯びてまいりました。一般的に、LLMの性能はパラメータ数の増加に伴い向上し、さまざまなタスクにおいて創発的な能力を発揮いたします。しかし、その高度化には膨大な計算資源が必要となり、トレーニングコストの増大や推論速度の低下といった課題が生じております。これらの制約は、LLMのさらなる実用化・普及における大きな障壁となっております。
コストを抑えつつ高性能を実現するモデルが求められる中、中国のAI企業DeepSeekが発表した「DeepSeek-V2」は、次世代LLMの新たなスタンダードとして大きな注目を集めています。
本記事では、DeepSeek-V2のアーキテクチャや技術的な特徴を詳しく解説し、他の最先端LLMとの比較を交えながら、その実力を検証していきます。AIの最新動向を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
DeepSeek-V2とは?
AIの世界では、最先端の大規模言語モデル(LLM)を開発するには莫大な技術力と資金が必要だという固定観念が長らく存在していました。
しかし、中国のAI開発企業 DeepSeek は、その常識を覆しました。DeepSeekは、中国・杭州を拠点とするAI開発企業であり、浙江大学出身の 梁文峰(Liang Wenfeng) 氏によって2023年5月に設立されました。梁氏は、中国のクオンツヘッジファンド High-Flyer の共同創業者でもあり、同ファンドがDeepSeekを所有しています。現在、DeepSeekはHigh-Flyer傘下の独立したAI研究機関として運営されています。
DeepSeekは、オープンソースのLLM開発に特化しており、2023年11月に最初のモデルをリリースしました。それ以来、コアとなるLLMを何度も改良し、さまざまなバリエーションを展開してきました。そして2024年5月6日、DeepSeekは「DeepSeek-V2」を発表しました。このモデルは、他社がLLM開発に費やしたコストのごく一部で実現されており、オープンソースライセンスのもと無料で利用可能です。
DeepSeek-V2は、圧倒的なコストパフォーマンスと高精度な性能を兼ね備え、AI市場に新たな革命をもたらしています。
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DeepSeek-V2の主な特徴とパフォーマンス
DeepSeek-V2は3つの主な特徴があります。圧倒的なコストパフォーマンス
DeepSeek-V2は、驚異的なコストパフォーマンスを実現したLLMです。API利用料金は業界でも最安クラスに位置しており、100万トークンあたりのコストは、入力が0.14ドル、出力が0. 28ドルという破格の設定になっています。これはGPT-4 Turboと比較して約1/107の価格であり、圧倒的なコスト削減を可能にしています。この低コストでありながら高性能を維持できる点が、DeepSeek-V2の最大の魅力の一つです。
効率的な推論
DeepSeek-V2は、最新のMoE(Mixture-of-Experts)アーキテクチャを採用し、230Bという巨大なパラメータを持ちながらも、推論時にはわずか21Bのパラメータのみを使用する効率的な設計が施されています。これにより、計算コストを劇的に削減しながら、高精度な推論を実現しています。
MoEアーキテクチャの導入によって、従来のDeepSeek 67Bと比較して大幅な性能向上を果たしました。さらに、トレーニングコストは42.5%削減、KVキャッシュの削減率は93.3%、最大生成スループットは5.76倍に向上しており、リソース効率の面でも非常に優れたモデルです。
卓越したベンチマーク結果
DeepSeek-Coder-V2は、コード生成および数学ベンチマークにおいて最先端の性能を達成し、GPT-4 Turbo、Claude 3 Opus、Gemini 1.5 Proなどのクローズドソースモデルを上回る結果を示しております。
コード生成を評価するLiveCodeBenchでは、DeepSeek-Coder-V2は74.2を記録し、GPT-4 Turboの71.8、Claude 3 Opusの68.2、Gemini 1.5 Proの65. 7を上回るスコアを達成しております。複雑な指示の遂行能力を測るSWEbenchでは、DeepSeek-Coder-V2は62.8を記録し、GPT-4 Turboの68.5には及ばないものの、優れた結果を示しております。数学的推論を評価するMATHでは、DeepSeek-Coder-V2は89.6の正確さを達成し、GPT-4 Turboの87.9、Claude 3 Opusの85.1、Gemini 1.5 Proの83.6を上回る高精度な結果を示しました。
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DeepSeek-V2: 革新的なLLMアーキテクチャ
従来のLLM開発・導入にかかる高コストという課題を解決するため、強力なオープンソースMoE(Mixture of Experts)言語モデル「DeepSeek-V2」が開発されました。
本モデルでは、経済的なトレーニングと高効率な推論を両立させる革新的なTransformerアーキテクチャを採用しております。特に、Transformerの核となる注意機構(Attention Module)とフィードフォワードネットワーク(FFN)の最適化に向けて、新たにMulti-head Latent Attention(MLA)とDeepSeekMoEを導入し、推論効率の向上と計算コストの削減を実現しました。
DeepSeek-V2は、これらの技術を組み合わせることで、圧倒的なパフォーマンスと高効率な処理を両立しています。
Multi-Head Latent Attention(MLA)による推論効率の向上
大規模言語モデル(LLM)において、Multi-Head Attention(MHA)のKey-Value(KV)キャッシュは、推論速度を低下させる大きな要因となっております。これまでにさまざまな解決策が模索されてまいりましたが、多くの場合、KVキャッシュを削減すると性能が低下するという課題がございました。
DeepSeek-V2では、この問題を解決するためにMulti-Head Latent Attention(MLA)を導入しております。本技術では、低ランクのキーとバリューの結合圧縮を活用することで、KVキャッシュの使用量を大幅に削減しながら、従来のMHAと同等またはそれ以上の性能を維持することに成功いたしました。これにより、メモリ効率を向上させつつ、推論の高速化を実現しております。
DeepSeekMoEによる専門化と知識獲得の最適化
DeepSeek-V2では、フィードフォワードネットワーク(FFN)の最適化のため、微細なエキスパートセグメンテーションと共有エキスパート分離を採用したDeepSeekMoEアーキテクチャを導入しております。
この手法により、各エキスパートの専門性が向上し、知識獲得の精度が高まるとともに、エキスパート間の冗長な情報を抑制することが可能となりました。さらに、計算資源を最適化することで、効率的かつ低コストなトレーニングを実現しております。
また、トレーニング時にはエキスパート並列処理を活用し、通信オーバーヘッドを抑えつつ負荷分散を最適化する補助メカニズムを導入しております。これにより、従来のMoEアーキテクチャと比較して、より効率的な学習が可能となっております。
MLAとDeepSeekMoEという二つの革新技術を組み合わせることで、DeepSeek-V2は高い性能と推論効率を維持しながら、トレーニングコストを削減することに成功いたしました。計算資源を最適化することで、高品質な生成を維持しつつ、高速な推論を実現し、実運用における負担を軽減いたします。
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まとめ
DeepSeek-V2は、革新的なアーキテクチャを採用することで、低コストかつ高性能な推論を実現したオープンソースLLMです。このような最先端技術をビジネスに活用し、実際のソリューションとして提供するには、高度な専門知識と開発力が求められます。
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