物事にはこれで極めたと思っても、必ずその上がある。
進歩は現状を否定するところから始まる *福島孝徳 (医学者の名言)
EHR (Electric Health Record, 電子健康記録)とは、医療業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を支える基幹システムです。医療DXは、社会と医療の関係性も変革させる力があると考えられます。
医療業界は、依然過酷な環境にさいなまれています。コロナ以降も、新型コロナウィルス以外の通常患者が再来し、医療人材の不足は未だに解決の糸口が見いだせないためです。このことは、医療従事者の離職が問題になるだけでなく、医療事故件数の増加にもつながる恐れが大いにあります。(NHK NEWS WEBで報道された関連ニュース)
この記事では、そのEHRの特性、メリット、導入前後の注意点、オフショア開発との関係について一端を明らかにする目的で、解説します。
目次
- EHRとは?
- EHR導入のメリット
- 的確な治療を下支え
- 機関・地域を超えた情報共有が可能
- 病状の早期把握・患者ケアの適正化・薬の適切な処方
- 平常時・緊急時を問わず迅速なデータ収集が実現
- 医療コストの削減
- 個別化医療に向けた患者の自主性の向上
- EHR導入のデメリット
- 医療DXとオフショア開発
- この記事のまとめ
EHRとは?
EHR は、それぞれの医療機関で取得した患者の健康情報をデジタルデータとしてシステムに記録・管理し共有できるシステムです。このEHRに類似した医療システムとして EMR とPHRがあります。
この章では、本論に先行してEHRが他のシステムと何が異なるのかを説明します。
PHR
PHR (Personal Health Record, 個人健康記録) は医療機関外で取得されることの多い、体重、血圧、生活習慣など健康情報を記録するシステムです。その点では、医療従事者向けというより、患者自身の健康管理に利用するという対象者の相違があります。
EMR
EMR (Electric Medical Record, 電子医療記録) は、ひとつの医療機関内にあるシステムで、診療情報等を電子的に記録・アーカイブします。医療機関ごとに独自のシステムを有しており、EHRのように、他の医療機関や地域をまたいだ情報共有システム他の医療機関との連携は想定されていません。そのためEMRを利用してEHRを構築する場合、各EMRシステム間の互換性が必要です。
EHR導入のメリット
医療業界におけるデータ取扱いは膨大かつ複雑です。そんな業界特性を考慮すると、 EHRの導入には、次のようなメリットがあります。
的確な治療を下支え
EHRシステムは、手書きや手動でのデータ入力に伴うリスクを軽減し、誤解や処方ミスを防ぎます。さらに、EHRは薬物相互作用やアレルギーなどの潜在的な問題を自動的に顕示・報告し、リスクを医療従事者に通知します。
医療記録におけるエラーは重大な医療事故を招く可能性がある分、安全と正確さの保障は最重要事項となるはずです。EHRシステムは、正確な患者情報をアーカイブしているため、医療従事者は医療エラー防止と患者の治療結果を向上させることができるはずです。また、医療機関全体でデータが標準化されているため、類似し関連する患者情報が正確かつ適切に記録され、随時更新されます。
また、EHRは、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act, 医療保険の携行性と責任に関する法律 英語) などの医療に関する法律や規制に準拠し、機密性の高い患者データを安全に保存し管理することをより強固に裏づけることができます。
機関・地域を超えた情報共有が可能
EHRシステムの最大の利点の一つは、医療機関間で引継ぎや情報共有が可能な点です。患者が他の病院を受診する際にも、医療記録が即座にアクセス可能で、検査や治療の重複を減らすことができます。ゆえに、迅速な診断と治療、不完全な医療情報に起因するエラーの発生も抑制されます。
病状の早期把握・患者ケアの適正化・薬の適切な処方
EHRシステムより、医療従事者は包括的な患者情報に基づいて、より正確かつ個別化された治療を行うことができます。すなわちEHRシステムによって、複数の部門や専門医が関与する場合でも、ケアの質を高められるのです。たとえば、慢性疾患管理の文脈では、EHRシステムにより、患者の進捗状況を効果的に追跡し、長期的なデータに基づいて治療計画を調整しやすくなります。これにより、医療機関はよりパーソナライズされた効果的な治療を提供できるようになります。
平常時・緊急時を問わず迅速なデータ収集が実現
EHRシステムは、緊急時に迅速な意思決定が必要なときに、正確かつ最新のデータを提供できます。これは医療従事者が傷病者の安全を確保する上で重要な役割を果たします。正確で完全な患者情報へのアクセスにより、医療従事者は医療エラーを防ぎ、不要な処置を減らし、患者の治療結果を向上させることができます。
医療コストの削減
アナログ管理からEHRシステムに移行することで、管理業務のタスクが大幅に削減されます。それは、チャート作成、ファイリング、記録検索などの手作業が自動化されることを意味するため、医療従事者・提供者はコア外業務に費やす時間が減り、コスト削減と患者ケアに集中できるようになります。
個別化医療に向けた患者の自主性の向上
高度なEHRシステムには、患者ポータルが含まれていることが多く、患者は自分の医療情報にアクセスし、検査結果を確認し、医療提供者と直接コミュニケーションを取ることができます。この透明性により、患者は自分の健康管理に積極的に参加することができ、自身の病状に対する責任感と理解が深まります。これにより、患者が医療ニーズを管理しやすくなることで、患者満足度と健康結果の改善が期待できると言えます。
EHR導入のデメリット
EHRを新規導入する場合、以下のデメリットに注意を払い、対策を講じる必要があります。
導入・運用費用がかかる
EHR導入には、導入・運用コストが必要である上、システムの設定やスタッフの研修費用、使用環境の整備などに費用がかります。まずは、各ネットワークにおける医療施設にどんなシステムが必要で、何が不必要なものなのかを見定めることが大切で、少しでも運用コストを抑えながら各ネットワーク内の医療機関にあったEHRシステムを導入することが大切です。導入時間と緊急時の対応を考慮する必要がある
EHR運用は、スムーズな運用ができるまでには、少々時間がかかります。デジタルツールが使いこなせるまでの時間に個別の医療関係者の間でばらつきもあると想定できます。そのため導入前後に充分な習得期間を設けることが重要になってきます。
また、緊急時、たとえば停電になると業務がストップしてしまう可能性もあります。もし、パソコンの故障や停電などが起きたときに備え、応急で対応できるバックアップの手法とソースを確保しておく必要があります。
紙面の情報を入力しなければならない
アナログ管理からのシステム自動化に移行するには、紙面の情報をデジタル化しなくてはいけません。それに伴い、これまでの院内の運用を変更しなければいけない場合があります。
この場合のデジタルソリューションとして、カルテや他の書類をスキャンやAI認識してデジタル化するという方法もあります。
※関連記事:AI・画像認識ソリューション
医療DXとオフショア開発
医療現場においては、かねてから看護・介護の人材確保として、東南アジア諸国から看護師を雇用する動きはありました。しかし、医療DXは、そのような医療現場の人材確保だけでは行えない変革も可能にします。すなわち、人材を増やすだけではなく、限られた看護(または救急)リソースの効率活用を行ったり、個別に健康管理を促し対応患者数を減らせたりと、医療の在り方そのものを変革できます。
オフショア開発と医療DXに関して述べれば、医療業界の専門性が高く、機密保持の観点から敬遠されている風潮がありました。そのような中でも、新興国側の技術集積やセキュリティ品質の向上を受けて、オフショア開発による課題解決は、徐々に広まっていると考えられます。
※NTQジャパン:医療プラットフォーム(オフショア開発事例)
※カオピーズ:ヘルスケア開発事例
この記事のまとめ
医療は、わたしたちが健康に暮らすうえで重要な業界です。また、医療DXが進行するにつれ、医療そのものの在り方も新たになりつつあります。
EHRは患者に応じた適切な治療や薬の処方を可能とするほか、自分の健康を自分で守る健康管理や個別化医療を促進させています。また、かつては不可能であった医療機関を越えた医療技術と患者情報の共有を通して、今後も医療レベルは格段に上がっていくはずです。
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※カオピーズ:DX推進支援
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