近年、ITやデジタル技術を最大限に活用し、多くの業界や企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。しかしながら、不動産業界は依然として従来のビジネス手法に固執しており、デジタル化の遅れが目立っています。DXの導入が遅れることで、将来的に競争力や優位性を確立できなくなる可能性があるとの指摘もあります。
本記事では、DX不動産に焦点を当て、不動産業界が抱える課題を踏まえつつ、DXの必要性や導入のメリット、さらには成功事例について詳しく解説していきます。
目次
不動産業界におけるDXとは?
DXとは
「DX」とは「デジタルトランスフォーメーション」の略で、デジタル技術を活用してビジネスプロセスを改善し、ビジネスモデルを変革し、競争優位性を確立することを指します。急速に変化する現代市場で生き残るためには、従来の方法では達成しにくい効率性を追求し、新しいサービスやビジネスモデルを創出することが重要です。
DXは不動産業界に限定された言葉ではなく、IT技術の浸透による生活の向上や競走上の優位性を狙っているビジネスで用いられます。
DX不動産とは
DX不動産(デジタルトランスフォーメーション)とは、不動産業界の業務にIT技術を導入し、物件・顧客管理や書類の手続きなどをアナログからデジタルに移行する動きのことです。
不動産テックとの違い
不動産テックは、不動産業界とテクノロジーを組み合わせた言葉であり、テクノロジーを活用して不動産分野の問題解決や商習慣の向上を目指しています。
そのため、不動産DXの大きな枠組みの中に、不動産テックが小さな枠として含まれているというイメージが持てます。不動産テックはさまざまなビジネスモデルが存在するため、企業に適したサービスを選ぶことが重要です。
なぜ不動産業界にDXが必要なのか?
まず、不動産業界においてDXの必要性を説明します。
業界特有のアナログな業務習慣
不動産業界における大きな課題の一つは、アナログな業務手法や対面での業務が未だに主流であることです。
総務省の「2019年通信利用動向調査報告書」によると、2019年時点での不動産業界におけるテレワーク導入率は25.4%であり、情報通信業や金融保険業の水準には遠く及びません。資料作成の手作業、対面での顧客対応や物件見学、旧式システムによる顧客管理など、多くの業務が人力に頼っているのが現状です。不動産業界に特有の業務プロセスが根深く残っており、旧来の構造から抜け出せない状態が続いています。
長時間労働による人手不足が深刻化
不動産業界では、非効率的な業務が常態化しており、長時間労働による人手不足が深刻な問題となっています。
パーソル総合研究所と東京大学の中原淳准教授による2018年の調査結果によると、不動産業界における月30時間以上の残業をしている社員の割合は31.8%(全業界平均21.6%)であり、14業種中4番目に多い結果となっています。また、他の業種に比べて未払い残業時間も多く、業界全体で高い離職率と慢性的な人手不足が課題となっています。
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顧客ニーズの多様化
顧客ニーズの多様化もDXを推進する理由の一つです。
近年では、物件選びの方法が店舗訪問からインターネットやスマートフォンを使った情報収集へと変化しています。さらに、働き方やライフスタイルの変化に伴い、新築物件だけでなく中古物件やリノベーション物件など、顧客の要望やニーズが一層複雑化しています。そのため、従来のシステムに頼るのではなく、顧客ニーズに応える新たな取り組みが求められています。
DX不動産のメリット
本セクションで、不動産業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)のメリットについて説明します。
業務効率化による生産性向上
デジタルトランスフォーメーション(DX)の導入は、従来のアナログな業務スタイルからデジタルへと移行する重要なステップです。この変革により、業務の効率が向上し、生産性が大幅に改善されます。
企業全体がデジタル化されることで、従来人手に頼っていたルーチン業務が自動化され、業務プロセスの可視化と分析が可能になります。これにより、人件費を含むさまざまなコスト削減に寄与します。また、包括的なサポート機能を持つシステムを導入することで、ヒューマンエラーを最小限に抑え、業務の質を向上させることも実現できます。
労働環境改善による人手不足の解消
業務効率の向上は、人手不足の解消にも繋がります。例えば、物件の査定など、経験が求められる業務では若手社員の育成に時間を割くことが難しく、人手不足が深刻な問題となります。しかし、査定システムの導入により、新人社員でも業務にスムーズに参加できるようになり、人材の定着率が向上します。
DXの推進は、業務プロセスの自動化や可視化だけでなく、従業員がより付加価値の高い業務にシフトできる環境を提供します。これにより、長時間労働の是正や人手不足の解消にも効果を発揮します。また、蓄積されたデータを分析し活用することで、新たなビジネスチャンスを創出することも可能です。
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顧客満足度の向上
DXの推進は、企業だけでなく、顧客や取引先にとっても多くのメリットをもたらします。オンラインでの顧客とのコミュニケーションや契約締結が可能になるシステムを導入することで、店舗への訪問が不要となり、顧客にとっての利便性が大幅に向上します。
この結果、顧客満足度が向上し、市場の変化や消費者行動に迅速に対応する能力も強化されます。顧客が求めるサービスを的確に提供できるようになることで、企業の競争力も向上します。
レガシーシステムからの脱却
デジタルトランスフォーメーション(DX)を導入することで、古いレガシーシステムから脱却することが可能になります。
現在、多くの企業が20年以上前に導入されたメインフレームやオフィスコンピュータに依存しており、その影響で社内システムは何度も改良が加えられる一方で、次第に複雑化してしまい、社内の人員では対処できないブラックボックス化が進んでいます。
このような状況は「2025年の崖」とも称されており、デジタル化を進めない企業は、2025年から2030年にかけて年間12兆円もの経済損失を被る可能性が指摘されています。
そのため、DXを通じてレガシーシステムを刷新することで、競合との差別化や競争優位性を確保しつつ、経済的リスクを回避することが求められています。
新しいサービスやビジネスモデルの創出
DXを推進することにより、レガシーシステムからの脱却が実現し、新たなサービスやビジネスモデルを生み出すことができます。
消費者の多様なニーズに応える新たな価値を提供することで、競合他社とは異なるユニークなサービスを展開できるようになります。また、異なるシステムを連携させ、統合的に運用することで、利益の向上も期待できるでしょう。
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DX不動産の事例
不動産契約や顧客サービスに絞っても、多くの便利なシステムが存在します。ここでは、不動産業界における3つのDX事例をご紹介します。
不動産管理システム
不動産管理システムを導入することで、物件情報や顧客情報、過去のトラブル対応履歴など、膨大なデータを一元管理することが可能です。不動産業務で取り扱うすべてのデータを紙で管理すると、確認や更新に非常に多くの時間がかかってしまいます。正しく活用することで、業務効率が向上し、従業員の定着率も上がるでしょう。
電子契約システム
オンラインで契約を締結できるシステムです。不動産取引において、一部の書類はこれまでデジタル化が認められていませんでした。しかし、2022年5月から、その規制が完全に解除されました。これにより、物件の売買契約や賃貸契約に関連するすべての書類をオンラインで締結することが可能になりました。ペーパーレス化が進むだけでなく、遠方の顧客ともスムーズに契約を締結できるようになります。
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Web顧客サービスツール
オンライン上で顧客とやり取りができるツールです。遠方に住んでいるため、物件の内覧や訪問が難しい顧客もいます。Web顧客サービスツールを活用することで、より多くの顧客に物件を検討してもらい、スムーズな契約の進行を促進できます。
まとめ
不動産業界は、長時間労働、人手不足、デジタル化の遅れなど、多くの課題に直面しています。しかし、こうした停滞を嘆くのではなく、DX導入を推進するために、業務プロセスを見直し、無駄や不要な作業を徐々に排除していくことが必要です。
AI技術の進化やリモートワークの普及など、近年のビジネス環境の変化からも明らかなように、デジタル化の進展は今後も確実に加速していくでしょう。この流れに取り残されないためにも、今すぐにでもDX導入を検討してみませんか?