ウォーターフォールとアジャイルの違いは?それぞれの手法を解説
ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違いは、工程の進め方だけにとどまらず、契約形態・スコープ管理・チーム体制にまで及びます。プロジェクトの特性に応じた手法選定は、納期遅延やコスト増のリスクを左右します。本記事では、両手法の違いを8つの観点・メリット・デメリット・実例を交えて解説し、プロダクトやシステムに最適な手法を選定するための判断軸をご紹介いたします。
ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違いとは
ウォーターフォール開発とアジャイル開発の大きな違いは、その開発プロセスの進め方にあります。ウォーターフォール開発は、上から下に各工程を後戻りしない前提で進めていく手法で、アジャイル開発は、機能単位で小さくすばやく開発を繰り返していく手法です。
ウォーターフォール開発では、要件定義・設計・実装・テスト・運用といった工程が段階的に進められるため、計画通りに進行でき、進捗管理がしやすい点が特徴となります。一方アジャイル開発では、短いサイクル(イテレーション)で動作するソフトウェアを段階的に提供しながら、変化に応じて方向性を調整できる点が特徴です。
両手法の違いは、こうした「進め方」の差から派生し、契約形態やスコープ管理、チーム体制、ドキュメント整備のあり方にまで影響を及ぼします。
📊 ウォーターフォール開発の採用動向
IPAの『ソフトウェア開発分析データ集2022』 によれば、収集した5,546プロジェクトのうちウォーターフォール型が大多数を占めており、アジャイルを含む反復型とその他の合計は約2.8%にとどまっています(出典:独立行政法人情報処理推進機構『ソフトウェア開発分析データ集2022』、2022年)。
業種や企業規模によって採用状況は異なるものの、基幹系・法規制対応系での開発では引き続きウォーターフォール型が主流となっています。なお、現在はウォーターフォール開発・アジャイル開発の二択だけでなく、両者を工程フェーズに応じて組み合わせるハイブリッド型の採用も広がっています。
ウォーターフォール開発のメリット・デメリット
ウォーターフォール開発の特性を正しく把握することは、プロジェクトへの適用判断の第一歩となります。ここでは、4つのメリット・3つのデメリット・向き不向きの観点から整理します。
図A: ウォーターフォール開発のメリット・デメリット一覧
ウォーターフォール開発の4つのメリット
ウォーターフォール開発には、プロジェクト管理の観点から4つの主要なメリットがあります。手法の特性を正しく理解することで、適切なプロジェクトへの適用判断がしやすくなります。
1. プロジェクト全体の見通しが立てやすい
ウォーターフォール開発の最初のメリットは、プロジェクト全体のスケジュール・予算・リソースを事前に計画しやすい点です。開発開始前に要件定義・基本設計・詳細設計・実装・テスト・運用保守といった全工程と成果物を明確に定義するため、経営層や発注側のステークホルダーに対して、進行状況と完了見込みを説明しやすい構造となっています。特に、承認プロセスが複数存在する大規模プロジェクトや官公庁向けシステムでは、この透明性がステークホルダーへの説明責任を果たす前提条件となります。
2. 進捗管理がしやすい
各工程に明確な完了基準と成果物(要件定義書・設計書・テスト仕様書など)が設けられているため、「どの工程までが完了しているか」を客観的に把握できます。その結果、プロジェクトマネージャーはマイルストーンごとの進捗確認とリスク管理を体系的に行いやすく、チーム規模が大きい案件や複数のベンダーが関与するプロジェクトでも、全体の調整がしやすくなります。
3. 品質を担保しやすい
工程ごとにレビューと承認が行われるため、前工程の品質が担保された状態で次工程に進む構造となっています。テスト工程で発生した不具合を工程単位でトレースして原因分析する際に、各工程の成果物が記録として残っていることで、品質問題の追跡・修正が体系的に行えます。安全性や正確性が特に求められる医療・金融・公共系システムでは、この品質管理の仕組みが、医療・金融・公共系での採用を支える根拠となっています。
4. ドキュメントが整備され引き継ぎが容易
各工程での文書化が徹底されるため、システムの全体構造・設計根拠・テスト結果が記録として残ります。このため、開発終了後に運用保守チームへの引き継ぎがスムーズになるほか、担当者が交代した場合や数年後に改修が必要になった際にも、過去の設計意図を追跡できます。長期にわたって安定運用が求められる基幹システムでは、この引き継ぎやすさが長期的なコスト削減につながります。
ウォーターフォール開発の3つのデメリット
一方で、ウォーターフォール開発には構造上の制約から生じる3つのデメリットがあります。プロジェクトの性質によっては、これらの制約が大きなリスク要因となる場合があるため、把握することで、プロジェクト適用前にリスクの優先順位を整理できます。
1. 仕様変更への対応が困難になりやすい
後工程での仕様変更が発生した場合に、前工程に遡って修正が必要となり、工数・コスト・スケジュールへの影響が大きくなりやすい点が最初のデメリットです。各工程が前工程の成果物を前提に進む構造であるため、実装工程が完了した後に要件変更が発生したケースでは、設計書・コード・テスト仕様書のすべてを見直す必要が生じることがあります。
2. 動作するソフトウェアの確認が後工程になる
実際に動作するソフトウェアをステークホルダーが確認できるのがテスト工程以降となるため、要件定義や設計段階での認識ズレが開発後半まで発覚しにくい点が2つ目のデメリットです。ユーザーニーズが明確に定義しにくいプロダクトや、想定ユーザーの反応を早期に確認したいサービス開発では、この点が大きな課題となりやすいです。
3. 市場変化への迅速な対応が難しい
計画を固定して進める性質上、開発期間中に外部環境・競合状況・ユーザーニーズが変化した場合に、プロジェクト計画を柔軟に修正する余地が小さい点が3つ目のデメリットです。特に、Webサービスやモバイルアプリのように市場フィードバックを継続的に取り込みながら機能を進化させる必要があるプロダクトでは、固定的な工程管理がボトルネックになるケースがあります。
ウォーターフォール開発が向いているケース・向いていないケース
ウォーターフォール開発が適しているかどうかは、プロジェクトの要件確定度・品質要求・変更対応の必要性によって大きく異なります。自社プロジェクトの特性と以下の表を照らし合わせることで、手法選定の判断材料としてご活用ください。
| 観点 | 向いているケース | 向いていないケース |
|---|---|---|
| 要件の確定度 | 要件・仕様が開発開始前に明確に定義できる | ユーザー要望が開発中に変化しやすい |
| プロジェクトの種類 | 基幹システム、法規制対応システム、インフラ構築 | 新規Webサービス、SaaS、新規事業PoC |
| 品質・安全性の要求 | 医療・金融・公共系など高い安全性・正確性が必要 | 市場反応を見ながら機能を随時調整したい |
| 組み込み・ハードウェア連携 | 組み込みソフトウェア、ハードウェアと連動する開発 | UIの改善・ABテストを繰り返したい |
| 文書化・監査要件 | 規制対応で設計書・テスト記録などの文書整備が必要 | スピードを優先し、ドキュメントを最小化したい |
| チーム構成 | 複数ベンダーが関与し、工程ごとの役割分担が明確 | 小規模チームでスクラム的に進めたい |
表1: ウォーターフォール開発が向いているケース・向いていないケース
アジャイル開発のメリット・デメリット
アジャイル開発のメリット・デメリットを正しく把握することは、プロジェクトの特性に合った手法選定の第一歩となります。ここでは、ウォーターフォール開発との比較を意識しながら、アジャイル開発の特徴を4つのメリット・3つのデメリット・向き不向きの観点から整理します。
図B: アジャイル開発のメリット・デメリット一覧
アジャイル開発の4つのメリット
アジャイル開発には、変化への対応力とユーザー価値の早期実現という観点から4つの主要なメリットがあります。ウォーターフォール開発との違いを意識しながら確認することで、自社プロジェクトへの適用判断がしやすくなります。
1. 仕様変更に柔軟に対応できる
アジャイル開発の最も大きなメリットは、イテレーションごとに計画を見直す構造を持つため、開発途中の仕様変更や要件の追加に柔軟に対応できる点です。市場環境の変化や利用者のフィードバックを次のスプリントに取り込むことができるため、開発の方向性をプロジェクト進行中に調整することが可能です。
2. 早い段階から動作するソフトウェアを確認できる
各イテレーションの終了時に動作するソフトウェアの成果物が生まれるため、ステークホルダーは開発の初期段階から実際の画面や機能を確認できます。これにより、要件定義と実装の間の認識ズレを早期に発見・修正できるほか、ユーザーが実際に触れた反応をもとに優先機能の見直しを行いやすくなります。
3. 顧客フィードバックを反映しやすい
アジャイル開発では、各イテレーションのレビューでステークホルダーからのフィードバックを収集し、次のスプリントバックログに優先度付きで組み込む仕組みが標準的に設けられています。このため、「作り終わってから要望と違った」というリスクを低減しながら、顧客が本当に必要とする機能を継続的に届けることができます。
4. チーム全体で協力しながら開発を進められる
アジャイル開発はチームの自律性と横断的な協力を重視する設計となっており、エンジニア・デザイナー・プロダクトオーナーが一体となって開発サイクルを回す体制を前提としています。デイリースクラムなどの定例コミュニケーションを通じて、チーム内の認識ズレを早期に解消しながら進められる点が、品質と速度の両立につながります。
アジャイル開発の3つのデメリット
一方で、アジャイル開発にも構造上の特性から生じる3つのデメリットがあります。これらはアジャイル開発が「劣っている」ということではなく、プロジェクト特性と合わない場合に顕在化するリスクとして理解することで、適用前にリスクを事前に整理できます。
1. 全体スケジュール・予算の見積もりが難しい
アジャイル開発の最初のデメリットは、スコープが変化することを前提とした構造上、プロジェクト全体の完了時期や総コストをあらかじめ正確に見積もることが難しい点です。経営層や発注側が固定予算・固定納期でのコミットメントを求める場合、アジャイル開発の見積もり方式との間に調整が必要になるケースがあります。
2. 開発の方向性がブレやすい
イテレーションごとに要件を柔軟に変更できる反面、プロダクトビジョンや優先順位の管理が不十分な場合には、開発の方向性が一貫性を欠いてしまうリスクがあります。特に、プロダクトオーナーの意思決定が遅い、あるいはステークホルダーからの要望が頻繁に変わる環境では、スプリントをこなすほどにスコープが拡大していくスコープクリープが発生しやすくなります。
3. ドキュメントが軽視されやすい
アジャイルソフトウェア開発宣言が「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを」と定めていることから、ドキュメント整備が後回しになりやすい傾向があります。ただし、これはドキュメントが不要という意味ではなく、「動くソフトウェアの価値を優先する」という趣旨であることを正確に把握した上で対応することが求められます。長期保守・チーム交代・外部監査が見込まれるプロジェクトでは、最低限のドキュメント整備を別途計画に組み込む必要があります。
アジャイル開発が向いているケース・向いていないケース
アジャイル開発が適しているかどうかは、要件の変化頻度・ステークホルダーの関与度・チームの自律性によって大きく異なります。以下の表を自社プロジェクトの特性と照らし合わせて、手法選定の参考にしてください。
| 観点 | 向いているケース | 向いていないケース |
|---|---|---|
| 要件の変化頻度 | ユーザーニーズや市場環境が変化しやすい | 要件・仕様が開発開始前に固定できる |
| プロジェクトの種類 | 新規Webサービス、SaaS、モバイルアプリ、新規事業PoC | 基幹システム、法規制対応システム、インフラ構築 |
| 品質・安全性の要求 | 機能改善を継続的に反映しながら品質を高めたい | 医療・自動車組み込みなど高い安全性・正確性が必要 |
| フィードバックサイクル | 顧客・ユーザーが開発に継続的に関与できる | ステークホルダーの関与が限定的・非定期 |
| 文書化・監査要件 | ドキュメントより動くソフトウェアの早期提供を優先 | 規制対応で設計書・テスト記録などの文書整備が必要 |
| チーム構成 | 小規模で自律的なチームで進めたい | 複数ベンダーが関与し、工程ごとの役割分担が必要 |
表2: アジャイル開発が向いているケース・向いていないケース
ウォーターフォールとアジャイルの比較
ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違いは、単なる「工程の進め方の差」にとどまりません。本セクションでは、以下の観点から両手法を整理します。
- 工程の進め方・柔軟性・提供スピード
- スコープ・コスト・スケジュール管理
- テスト頻度・ドキュメント整備
- ステークホルダーの関与度・契約形態との相性
8つの観点で比較する一覧表
プロジェクト運営に直結する8つの観点で両手法を比較します。工程管理・品質・契約形態との相性まで横断的に確認することで、自社プロジェクトへの適用判断がしやすくなります。
| 観点 | ウォーターフォール開発 | アジャイル開発 |
|---|---|---|
| 工程の進め方 | 上流から下流へ順次進行。前工程完了後に次工程へ移行 | 短いイテレーション(1〜4週間)を繰り返しながら段階的に開発 |
| 柔軟性 | 低い。仕様変更は前工程への手戻りを伴いやすい | 高い。各イテレーション終了時に要件・優先度を見直せる |
| 提供スピード | 全工程完了後に成果物をリリース | 各イテレーション終了時に動作するソフトウェアを提供 |
| スコープ・コスト・スケジュール管理 | 固定スコープを前提に計画しやすい。総コスト・納期の見通しが立てやすい | スコープ可変を前提とするため、総コスト・納期の事前確定が難しい |
| テスト頻度 | テスト工程はシステムテスト・受け入れテストが中心で後工程に集中 | 各イテレーション内でテストを実施。問題を早期に発見・修正しやすい |
| ドキュメント整備 | 各工程で文書化を徹底。設計書・テスト仕様書など成果物が体系的に整備される | 動くソフトウェアを優先するため、ドキュメントは必要最低限になりやすい |
| ステークホルダーの関与度 | 要件定義・受け入れテスト時に集中。開発中の関与は限定的になりやすい | 各イテレーションのレビューで継続的に関与。フィードバックを随時反映できる |
| 契約形態との相性 | 請負契約(固定スコープ・成果物責任)と親和性が高い | 準委任契約・ラボ型開発(柔軟スコープ・工数精算)と親和性が高い |
表3: ウォーターフォール開発とアジャイル開発の8観点比較(契約形態との相性を含む)
アジャイルとウォーターフォールを組み合わせたハイブリッド開発モデル
ウォーターフォール開発とアジャイル開発のいずれか一方に限定せず、両者を工程単位で使い分けるハイブリッド開発という選択肢があります。プロジェクトの性質に応じてどちらの手法をどの工程に適用するかを理解することで、手法選定の幅が広がります。
ハイブリッド開発の基本的な考え方
ハイブリッド開発とは、プロジェクトの工程フェーズに応じてウォーターフォール開発とアジャイル開発を使い分ける手法です。代表的な構成では、要件定義・基本設計・総合テスト・リリースといった上流・下流工程をウォーターフォール的に固定し、詳細設計・実装・単体テストの中流工程をアジャイル的なイテレーションで進めます。この構成は、上流で品質基準を固定しつつ実装の柔軟性を確保する場合に有効です。
ハイブリッド開発が有効な場面
全体の方向性と品質基準はウォーターフォール的に管理しつつ、詳細実装で柔軟性を確保したいプロジェクトに適しています。
- 基幹システム刷新で上流設計を固めながら、個別モジュールはアジャイル的に開発したい
- 外部システムとの連携仕様は固定されているが、内部ロジックは試行錯誤が必要
- 上流・下流の品質基準を守りつつ、中流工程のスピードも確保したい
「自社プロジェクトにどちらが合うか判断が難しい」方へ
要件の確定度や品質要求、契約形態の希望をヒアリングした上で、貴社に最適な開発手法・契約形態をカオピーズの専門家がご提案いたします。
開発手法の選び方を相談する →アジャイル開発とウォーターフォール開発の実例
開発手法の選定は、理論だけでなく実際のプロジェクト事例を参照することで、より具体的な判断軸を得ることができます。ここでは、以下の3つの業界における実例を通じて、それぞれの手法がどのような理由で選ばれ、どのような成果につながったかを確認します。
- 医療業界:仕様の明確性と安全性を優先したウォーターフォール開発の選択
- EC業界:ユーザー反応を取り込みながら進めたアジャイル開発の選択
- AI業界:要件を運用しながら洗練させたラボ型によるアジャイル的開発
カオピーズがこれまで手がけた1,000件以上のプロジェクト実績の中から、業界・契約形態の異なる3つの事例をご紹介いたします。
1. 医療業界の事例(ウォーターフォール開発を選択)
医療系システムの開発では、患者データの正確性と安全性が最優先となるため、手法選定においても品質担保の仕組みが重要な判断軸となります。本事例は、医師向けWebダッシュボードと患者向けモバイルアプリを統合した患者管理システムの開発をカオピーズが担当した案件で、ウォーターフォール開発(請負契約)が採用されました。
図1: 医療業界 患者管理システム開発事例(ウォーターフォール × 請負契約)
開発規模は72人月(9名×8ヶ月)で、AWS・C#/.NET・JavaScript・Flutterを技術スタックとして採用しています。この案件でウォーターフォール開発が選ばれた主な理由は、患者情報の一元管理という要件が開発開始前に明確に定義できたこと、医療データを扱う性質上、設計書・テスト記録などの文書整備が必要とされたこと、そして医師・患者双方が使うシステムとして高い正確性と安全性が求められたことにあります。
[結果]
医師と患者間のリアルタイム情報共有が実現し、医療スタッフの業務負担軽減につながりました。
2. EC業界の事例(アジャイル開発を選択)
EC領域では、ユーザーの購買行動や市場トレンドの変化が速く、開発途中でも機能の優先順位を柔軟に見直せる体制が求められます。本事例は、グルメ通販アプリの開発をカオピーズが担当した案件で、ラボ型契約によるアジャイル開発が採用されました。
図2: EC業界 グルメ通販アプリ開発事例(アジャイル × ラボ型契約)
開発規模は30人月(8名・3ヶ月)で、AWS・Swift・PHPを技術スタックとして採用しています。この案件でアジャイル開発が選ばれた主な理由は、レビュー信頼性の向上や商品管理効率化といった要件がユーザーの反応を見ながら継続的に調整される性質を持っていたこと、そして多店舗対応やモバイル最適化など機能改善を繰り返しながら完成度を高める必要があったことにあります。
[結果]
購入率の向上とリピート促進につながりました。
3. AI業界の事例(ラボ型でアジャイル的に開発)
AI・チャットボット領域では、機能要件が実際の運用を通じて洗練されていく性質が強く、事前に仕様をすべて固めることが難しいケースが多くあります。本事例は、社内業務効率化を目的としたAIチャットボット(KariChan)の開発をカオピーズが担当した案件で、ラボ型契約によるアジャイル的な開発が採用されました。
図3: AI業界 KariChan開発事例(アジャイル × ラボ型契約)
開発規模は25人月(6名・5ヶ月)で、ChatGPT/OpenAIを活用した独自ナレッジ連携・アクセス管理・セキュリティ対応を実装しています。この案件でラボ型開発が選ばれた主な理由は、業務効率化の具体的な要件がユーザーの利用状況に応じて変化する性質を持っていたこと、データセキュリティへの懸念に対応しながら段階的に機能を追加していく必要があったことにあります。
[結果]
年間数百時間の業務効率化と情報漏洩リスクの最小化が実現しました。
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自社に近い事例を相談する →アジャイルとウォーターフォール開発に関するよくある誤解
両手法に関しては、現場でよく見られる誤解がいくつか存在します。誤った前提で手法を選定すると、プロジェクトの途中で想定外のトラブルが発生するリスクがあります。ここでは、特に注意が必要な5つの誤解を取り上げ、それぞれの実態を整理します。
- アジャイル開発にドキュメントは不要
- ウォーターフォール開発は時代遅れ
- アジャイル開発はウォーターフォール開発より早くて安い
- 請負契約でもアジャイル開発はできる
- ハイブリッド開発はウォーターフォールとアジャイルのいいとこ取り
1. アジャイル開発にドキュメントは不要
アジャイルソフトウェア開発宣言の「包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを」という表現が独り歩きし、「ドキュメント不要」という誤解が広まっています。しかし本来の意図は、動作するソフトウェアの価値を優先するという趣旨であり、文書作成自体を否定するものではありません。
以下のようなプロジェクトでは、最低限のドキュメント整備が必要です。
- 長期保守やチーム交代が見込まれるプロジェクト
- 外部監査の対象となるプロジェクト
- 発注側が設計根拠・テスト記録の提出を求めるプロジェクト
整備の粒度とタイミングを事前にチームで合意しておくことで、納品時のトラブルを防げます。
2. ウォーターフォール開発は時代遅れ
「新しい手法=優れている」という先入観から、ウォーターフォール開発を時代遅れと見なす傾向が広まっています。しかし、法規制対応システム・基幹系システム・組み込みソフトウェアの領域では、今日においても主流であり続けています。 IPAの『ソフトウェア開発分析データ集2022』 でも、5,546プロジェクト中「ウォーターフォール型」がほとんどを占めるという結果が出ています(出典:独立行政法人情報処理推進機構『ソフトウェア開発分析データ集2022』、2022年)。
開発手法の優劣は「新しいか古いか」ではなく「プロジェクトの特性に合っているか」で判断すべきです。要件確定度・安全性要求・文書化義務が高いプロジェクトでは、ウォーターフォール開発が依然として合理的な選択となります。
3. アジャイル開発はウォーターフォール開発より早くて安い
イテレーションが短いアジャイル開発は「速くて安い」という印象を持たれがちですが、スプリントを繰り返すほど総工数が増加したり、要件変更で開発期間が大幅に延びたりするケースは現場でよく見られます。コスト削減を主目的に選択すると、スコープ管理が甘くなり、かえって高コスト・長期化するリスクがあります。
アジャイル開発の本来の目的は「速さ・安さ」ではなく、「変化への対応力」と「ユーザー価値の早期実現」です。手法選定はコストや速度ではなく、プロジェクトの性質と変化への対応必要性を軸に判断することが重要です。
4. 請負契約でもアジャイル開発はできる
「契約形態と開発プロセスは別物」と考え、請負契約のままアジャイル的に進めようとするケースがあります。しかし請負契約はスコープ・成果物・納期を固定する契約形態であり、スコープ変更を前提とするアジャイル開発とは構造的に相性が悪く、仕様変更のたびに契約変更が必要となり俊敏性が損なわれます。
IPAおよび経済産業省は、すでにアジャイル開発の外部委託に適した「情報システム・モデル取引・契約書〈アジャイル開発版〉」を公開しており、準委任型の契約モデルを提示しています(出典: 独立行政法人情報処理推進機構・経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書〈アジャイル開発版〉」 、2020年3月公開・2025年4月更新)。
企業がアジャイル開発を外部委託する際は、自社の契約書がこのモデルに準拠しているかを確認したうえで、準委任契約または ラボ型開発 への切り替えを検討することが重要です。なお、イテレーションごとの成果物が請負契約上の「完成」にあたるかという解釈の齟齬は、納品トラブルにつながるため併せて確認が必要です。
5. ハイブリッド開発はウォーターフォールとアジャイルのいいとこ取り
両手法のメリットを組み合わせられるという期待から、ハイブリッド開発を「万能な解決策」と捉える傾向があります。しかし工程の境界が曖昧なまま運用を始めると、ウォーターフォール的な管理とアジャイル的な進め方が混在し、チーム内で認識ズレが生じやすくなります。結果として、両手法のデメリットを同時に継承するリスクがあります。
成功させるためには、どの工程をウォーターフォール的に進め、どの工程をアジャイル的に進めるかを事前に明文化し、チーム全体で共有することが前提条件となります。
まとめ
ウォーターフォール開発とアジャイル開発の選定において判断の起点となるのは、「どちらが優れているか」ではなく「プロジェクトの特性に合っているか」という視点です。仕様の確定度・契約形態・変化への対応必要性という3つの軸を整理することで、自社プロジェクトに適した手法の判断が可能になります。
カオピーズでは、12年以上の開発経験と200社以上の取引先との実績をもとに、プロジェクト特性に応じた開発手法のご提案から、上流の要件定義・開発・運用保守まで一気通貫でご支援いたします。
よくある質問(FAQ)
Q1. ウォーターフォール開発とアジャイル開発で契約形態は変わりますか?
開発手法と契約形態は密接に関係しています。ウォーターフォール開発は固定スコープ・成果物責任を前提とする請負契約との親和性が高く、アジャイル開発はスコープ可変・工数精算を前提とする準委任契約やラボ型開発との親和性が高い構造となっています。請負契約のままアジャイル的に進めようとすると、仕様変更のたびに契約変更が必要となり、開発の俊敏性が損なわれるリスクがあります。
Q2. アジャイル開発の導入にはどのくらいの期間がかかりますか?
アジャイル開発の導入期間はプロジェクトの規模・チームの経験・導入範囲によって異なります。スクラムなどのフレームワークを初めて導入する場合、チームが安定したリズムで開発を回せるようになるまでに一般的に数スプリント(数週間〜2ヶ月程度)を要するとされています。また、アジャイル開発に慣れていないステークホルダーとの合意形成や、契約形態の見直しも含めた準備期間を考慮することが重要です。
Q3. オフショア開発でアジャイル開発を進めることはできますか?
オフショア開発においてもアジャイル開発を採用することは可能です。特に、準委任契約を基盤としたラボ型開発では、発注側が専任チームを確保しながら仕様を一緒に作り上げていくことができるため、アジャイル的なイテレーションを回しやすい体制を構築できます。ただし、時差・言語・文化の違いによるコミュニケーションコストを考慮し、日本語対応可能なブリッジSE(BrSE)の配置や定例ミーティングの設計を事前に検討しておくことが重要です。
Q4. スクラム開発はウォーターフォール開発とどう違いますか?
スクラム開発はアジャイル開発の代表的なフレームワークの一つであり、スプリントと呼ばれる短期サイクルを繰り返しながら開発を進める点がウォーターフォール開発との最大の違いです。ウォーターフォール開発が要件定義から運用保守まで工程を順次進める構造であるのに対し、スクラム開発は計画・設計・実装・テストを1〜4週間のスプリント内で完結させ、そのサイクルを反復します。また、スクラム開発ではプロダクトオーナー・スクラムマスター・開発チームという役割分担が明確に定義されており、チームの自律的な運営を前提とする点もウォーターフォール開発の管理体制とは異なります。
Q5. ウォーターフォール開発からアジャイル開発へ移行することはできますか?
進行中のプロジェクトでウォーターフォール開発からアジャイル開発へ移行することは、一定の条件が整えば可能です。ただし、移行には契約形態の見直し(請負契約から準委任契約への変更)、チームのアジャイルプロセスへの習熟、ステークホルダーとの合意形成といった準備が必要となります。特に、すでに詳細設計まで完了している場合は、残りの実装・テスト工程をイテレーション単位に再構成する形でのハイブリッド的な移行が現実的な選択肢となります。移行を検討する際は、現在の工程進捗と契約条件を整理したうえで、ベンダーと協議することで、移行リスクを工程ごとに可視化できます。
参考文献
-
独立行政法人情報処理推進機構(IPA).(2022).
「ソフトウェア開発分析データ集2022」.
https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/metrics/index.html -
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)・経済産業省.(2020年3月公開、2025年4月更新).
「情報システム・モデル取引・契約書〈アジャイル開発版〉」.
https://www.ipa.go.jp/digital/model/agile20200331.html
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